お仕事日録

シーリハムテリア チャップ君の旅立ち

ふさふさの白い被毛が美しいシーリハムテリアのチャップ君が旅立ちました。享年12歳でした。

 

チャップ君はかつて名古屋のあるブリーダーさんに飼われていました。しかし繁殖には向かないとの理由からブリーダーさんにとっては「有難くない存在」だったようです。時を同じくして「この犬を欲しい方はどうぞ」という譲渡犬の紹介記事を偶然目にしたお母様、どんな子なのかも分からないままお父様とともに名古屋のご子息の家を訪れるとそこからブリーダーさんの所に向かわれました。

 

初めてチャップ君と対面したお母様は、ビビッと感じるものがお有りだったのか、それとも繁殖のためだけに繋ぎ止められているチャップ君を不憫に思われたのか、「一緒に私たちのお家に行こうね!」と即断即決、その日のうちに石川のご自宅までチャップ君を連れて帰られたのです。

 

多くの繁殖犬は一般家庭で飼われていたわけではないので、ケージの中で長い時間暮らしていることもあり 新しい環境に慣れるのにはそれなりの時間がかかることも少なくないと聞いています。そのせいかお家にやってきた当初のチャップ君は病気がちで健康と言える状態ではありませんでした。しかし時が経つに連れ チャップ君はこれまで与えられていなかったであろう“愛情”をご夫妻にたっぷりと注いでもらうことで次第に病気にも負けない強い身体を手に入れるのでした。

 

身体ばかりでなく心のほうも本来の姿を取り戻します。ブリーダーさんから見捨てられ 心に傷を負っていたはずのチャップ君でしたが、愛のある優しい日々過ごすうち いつしか人にもワンコ友達にも誰にでも穏やかに接することのできる落ち着きのあるわんこちゃんへと成長していきました。ご夫妻のビタミン愛のおかげですね。

 

お父様にはチャップ君との懐かしい旅の思い出をお聞きしました。ご夫妻は富士山や広島の厳島神社などたくさんの素敵な場所にチャップ君を連れて出かけました。先ほどのお話のようにチャップ君は賢く物分かりの良い子でしたので何の心配もなく何処へでも連れて行くことが出来ました。行く先々でも持ち前の人懐っこさと穏やかさで道行く人を笑顔にさせていたみたいです。そんなエピソードをお聞きするにつけ、ましてやお父様の温かい語り口に チャンプ君がご家族様にどれほど愛され どれほど大切にされてきたのかがしみじみと伝わってくるのです。

 

 

そして今日のチャップ君の寝顔もまたとっても穏やかでした。お見送りには、チャップ君の枕元に色とりどりの花々とお母様の思いが綴られた色紙と折り鶴が供えられました。もちろんお父様の折られた鶴もございます。ご夫妻の真心を懐いっぱいに抱えたチャップ君はこうしてお二人に見守られる中、夜の空へと上がっていきました。

 

「お父さん、お母さん、これまでありがとう。家族になれてほんとうに幸せでした」そんなチャップ君の心の声はしっかりとご夫妻に届いていることでしょう。私どももまた彼を追いかけるように空を見上げました。月明かりで雲の切れ間がはっきりと見える空の奥、綺麗な列をなして輝く星々が目に入ります。そのなかの一番高い位置にひときわ輝く星がひとつ、チャップ君はおそらくあの星を目指して行ったのでしょう、きらきらと言うよりうるうると輝いて、大きくてそれでいてとっても穏やかに輝いているのです。

 

あの星がうるうるしているのは、チャップ君、泣いているからなの?もしかしたらママ様からの返信があったのですか?「家族になれて私達こそ幸せでした」そんなご夫妻の心の声がチャップ君に遠く届いてあの星を揺らしているような。ご家族の絆を感じつつ空に手を合わせる私たち 。 。

 

チャップ君のご冥福を心よりお祈りいたします。