2018年冬、忘れもしないあの豪雪の最中、お嬢様は籍を置く大学の構内で一匹の猫を見つけました。何処へ行く当てもなく彷徨った挙句、震えるばかりの泥だらけの猫。お嬢様は不憫に思い雪の中からその猫を抱き上げると猫はすぐに懐いてお嬢様から離れなくなりました。そこにご両親がお嬢様を迎えに来られます。お嬢様は猫を抱きながらご両親にお家に連れて帰りたいとお願いされました。この大雪。。このまま放っておくにはあまりに不憫。そんな可哀そうなことは到底できない - お母様はお嬢様の願いを承諾されました。
ご家族様は猫をお家に連れ帰り、体に付いた泥を落とします。すると真っ白な被毛が現れました。濁りのない真っ白な被毛を蓄えた白猫ちゃん。雪の日、雪の中から産まれた雪のように白い猫。まさに雪の妖精です。この時から雪という名前を頂いた猫ちゃんのお家猫の暮らしが始まりました。そして今日までご家族様はそんな雪ちゃんにすでに家族の一員だった老犬の梅ちゃん同様、たくさんの愛情を注いでこられました。
お家猫となり幸せに暮らしていた雪ちゃんでしたが、ご家族様とのお別れは突然やってきました。昨日、お母様が台所で炊事をしていると窓のほうからバタン!と大きな音がしました。何事かと振り返ったお母様はさっきまで外を見ていた雪ちゃんが窓際で倒れているのを見つけます。在宅中のご主人がすぐさま心臓マッサージを施しますが、雪ちゃんの白いお顔がみるみる青ざめていきます。そして、ついに亡くなってしまうのでした。
あっという間の出来事でした。朝、いつものようにご飯もしっかり頂いていた雪ちゃんなのに。いったい何があったのでしょうか。あまりに突然のお別れに茫然自失のご家族様。覚悟や心の整理も儘ならない突然のお別れは悲しみの像すら定まらないまま猛烈なスピードで今この時を追いかけてきます。ご家族様の心の在りようを考えるといたたまれない気持ちになります。お母様は以前ご縁を戴いたミックス猫の海君のお母様とご友人で、その繋がりから弊社をお知りくださり、この度の雪ちゃんのお火葬をご依頼いただいたのです。
お母様とお嬢様たちが最後のお別れにお花を雪ちゃんの枕元にお飾りになられているとお父様がお仕事の合間にお顔を見せられました。自力歩行も儘ならない梅ちゃんもお父様の腕の中。こうしてご家族皆様がお集まりいただき雪ちゃんの旅立ちをお見届けになられました。御年26歳になる鮒のフナ君も玄関のドアを隔てて水槽の中から見守ってくれていました。雪ちゃん、皆が見守ってくれているよ。幸せだね。あの日はひとりぼっちだったんだものね。
雪ちゃんの年齢は不明です。お嬢様に保護されるまでどんな猫生を歩んできたのかは知る由もありません。只、あの時、お嬢様に出会わなければどうなっていたのでしょうか。あの時、あの大雪でなかったら娘の申し出を断っていたかもしれない。お母様はあの日を振り返りそう仰っておられました。この出会いがなければ雪ちゃんの運命は悲しいものになっていたやもしれません。雪ちゃんは空に昇ってもご家族様へのご恩は決して忘れることはないでしょう。そして本当の妖精となった雪ちゃんはご一家にどんな幸運をもたらすのでしょうか。私には分かりませんが、もしかするとそれは雪の降る日にそっと届けられるのかもしれません。