お仕事日録

優しい気持ちの連鎖 白猫のべポ君の旅立ち

猫のべポ君が亡くなり 飼い主様のご自宅を訪ねました。ご自宅ではお母さまとお嬢さまがお待ちでした。べポ君は綺麗な色とりどりのお花に囲まれ箱の中で眠っています。

 

べポ君は「FIV感染症」に罹っていました。「猫エイズ」と呼ばれ、猫が免疫不全を引き起こす感染症です。感染経路については、母体からの感染、もしくは猫同士の喧嘩で感染するケースが殆どだと聞いています。感染後、発症に至るまでの進行が遅いのも特徴で、際立った体調不良に陥ることもなくキャリア状態ままで普通に過ごしていることも少なくありません。しかしながら 時の経過とともに徐々に全身の免疫機能が失われていくこともあります。いわゆるエイズ期です。この段階ではリンパの腫れ、口内炎、慢性的な下痢、皮膚病など体のいたるところに不具合が出てきます。べポ君もまた、口内炎による口の中の痛み、貧血症状、神経症状などに苦しめられました。どんなに辛かったことでしょうか。またその苦しむ姿をご家族さまは目の当たりにされていたのです。いろいろと思い馳せるほどに胸が詰まってまいります。辛かったね、べポ君。本当に耐えて耐えて頑張った。今はゆっくりとお休みください。

 

 

お拭き清めが始まりました。お包みが解かれ 体も露わになったぺポ君。白い被毛を全身に蓄えた白にピンクの肉球がとってもキュートな猫ちゃんでした。小さい頃はもっと白かったとお母さま。

 

お火葬はご自宅前でとり行うことになりました。炉前での最後のお別れに見せるべポ君のお顔はとっても穏やかです。家族と過ごしたこの8年、本当に幸せでした ー どこからともなく聞こえる声。風が揺れているのか、べポ君が風となって伝えているのか。ただ言えるのは、今こうして見送ってくれるお母さまやお嬢さまにどうしても伝えたい、葉擦れの音でもいい、遠くに走る電車の音でもいい、何でもいいから伝えたい。べポ君がそう願っていることだけは確かです。もしかすると べポ君は他でもない私の心を揺らして伝えようとしているのかもしれない、、そのようにも思えるのでした。

 

ご焼骨が終わる頃、お父さまがお戻りになられました。とっても優しいご主人でした。ご返骨を終えて最後にご挨拶させていただくとお嬢さまから私どもにひとつづつバームクーヘンをいただきました。「娘がお渡ししたいと言っているので。。」とどこかバツの悪そうなお父さま。ご訪問からお暇(いとま)するこの時間までずっとお母さまに寄り添いながらもべポちゃんの旅立ちを静かに見守っていたお嬢さま。お嬢さまのお心に触れて私どもはとても嬉しい気持ちになりました。べポ君からお嬢様に伝わる思い、お嬢さまから私どもにいただく思い、優しい思いの連鎖はこうも人を温かくさせるのですね。

 

べポ君のご冥福を心よりお祈り申し上げます。