お仕事日録

柴犬 伊達男の政宗君、その旅立ち

柴犬の政宗君が旅立ちました。享年14歳、急逝でした。

 

先週、急に政宗君が嘔吐を繰り返すようになりました。心配になったご夫妻はすぐに病院に連れて行きます。診断結果は急性膵炎。そのまま政宗君は入院を余儀なくされるのでした。

 

急性膵炎は命に関わる怖ろしい病気です。膵臓の消化酵素を作る働きが何らかの原因で活発化し、自らの膵臓を消化し傷つけてしまうのです。短期間で急激に悪化することも珍しくないようです。

 

政宗君の病状はかなり芳しくないもののようでした。何より老齢の政宗君です。襲い来る症状に耐えうるだけの体力も持ち合わせているかも不安です。ご夫妻は先生に色々ご相談されました。もし亡くなるのならご自宅で看取ってあげたいともお話しされ、明日には政宗君を連れて帰ることに決めておられたのです。

 

しかしながらその帰る日の午前、病院から連絡は入り 政宗君が息を引き取ったとの知らせを受けるのでした。お母様は、ご自宅で看取れなかったことが唯一の心残りだと涙ながらにお話しくださいました。

 

拭き清めが始まりました。お父様、お母様、お嬢様にもお手伝いいただきました。遠方にお住いの、もうひとりのお嬢様はご家族からの知らせに急遽ご自宅にお戻りになられ、一晩、政宗君と一緒に過ごし、すぐにまたお戻りになられたとのことでした。お嬢様にはご葬送のお立ち合いが叶わずどんなにお辛かったことか。今日の午前には別のご依頼をいただいており どうしてもこのお時間でしかお邪魔できなかった私どもでしたが、午前であれば遠方のお嬢様もお立ち合いが可能だったのかもしれない、そう思うととても残念な気持ちになりました。

 

 

政宗君は誰からも好かれる美男子でした。若かりし頃の遺影もご覧の通りの美しさです。そして今ここに眠る老いた政宗君もまた、さらに精悍さが加わってなかなかの伊達男なのでした。あ、だから伊達政宗にあやかって「政宗」と名付けられたのかもしれません。また、外見もさることながら大変穏やかな性格の持ち主でした。吠えない、咬まない、優しい子。お母様曰く、相当なモテ男だったみたいです。

 

ご出棺となりました。お母様は棺箱の中の政宗君に頬を埋めて号泣されました。お嬢様もお母様に寄り添いながら大きな涙をいっぱい零しておられました。お父様は込み上げるものをグッと堪えてそんなお二人を見守っておられます。政宗君。優しいご家族様に出会えて本当に良かった。幸せでしたね。

 

お火葬はご自宅の近くに適した場所が見つかり、場所を急遽変更してとり行いました。この場所はご自宅に近いので政宗君もきっと安心していただけたと思います。見上げれば、雨模様の午前とは打って変わり、いつしか青い空が広がっています。炉に火が入りました。政宗君がご家族様に見守られる中、空へと昇っていきます。途中、高台のご自宅も眼下に望めるのではないでしょうか。政宗君、どうかご家族様を見守っていてね。

 

昨日の今頃は元気にしてたのに、、と哀しく呟くお母様にお父様は、「これで良かったよ」と宥めておられます。お父様には、政宗君が長患いで苦しむようなことにはさせたくないとの思いがお有りのようでした。病気で苦しみ痛みを長く堪えて旅立ってゆくペットちゃんを見てきた私どもにはお父様のお気持ちがよく分かります。一方、政宗君の胸中に思い馳せれば、「大好きなご家族のみんなには迷惑はかけられない」との思いに至ったのかもしれません。政宗君がその優しさゆえに心を決めた旅立ちだったような気もするのです。

 

 

お母様は心残りと申されました。でも政宗君はこう伝えたかったんではないかと思います。「僕は大丈夫。心残りと言わないで。お家でも病院でもあの時だって今まで通り家族のみんなと心は繋がっていたんだから」と。政宗君のご冥福をお祈りいたしております。