お仕事日録

見附島をみて育った柴犬コロ君の旅立ち

救急で内灘の病院を紹介された芝犬のコロ君11歳と11ヶ月が旅立ちました。実はコロ君の飼い主ご家族様は珠洲にお住まいでこの度の能登半島地震で被災されているのです。

 

 

震災当日、コロ君はひとりお留守番をしていました。ご家族様は新年を祝うため皆でお母様のご実家で過ごしておられたのです。そんな時、折しも地震が発生。ご家族様のみならず日本中が騒然となりました。ご家族様は皆、無事でした。しかし留守番をしているコロ君が心配です。ご家族様はその日のうちにご自宅に向かいますが、道中のあまりの惨状に諦めざるを得なく、次の日、ご家族様は道路も分断、余震も続く中、ご自宅へと急ぎました。

 

ご自宅周辺までたどり着くと多くの家屋が津波によって倒壊していました。自家用車は流されてしまいましたが、なんとかご自宅はかろうじて倒壊を免れていました。倒れてきたものに挟まれていないだろうか、怪我して動けなくなっていないだろうか、コロ君の無事を祈りつつお父様は覚悟を決めてご自宅のドアを開きます。

 

屋内は言うまでもなく悲惨な状況。「コロ!」お父様は愛しい愛犬の名前を呼びました。すると何処からか「ワン!!」と愛おしい声音の返事が返ってきたのです。コロ君は無事でした。自分が安全でいられる場所を自ら探し飼い主様がきてくれるのをずっと待ってくれていたのです。

 

どんなに心細かったことか。それでもコロ君はご家族を信じて本当に良く頑張りました。ご家族様も同様にとても心配だったと思います。お互い、まさに命からがらの再会でありました。お父様の腕に飛び込んで尻尾を振るコロ君の大喜びする姿が目に浮かんでまいります。

 

コロ君には以前より持病があって珠洲から輪島の動物病院に通っていました。その病院の先生にはおそらく10歳迄は生きられないだろうと言われていたのです。それでもその10年をご家族の愛と頑張りで乗り超えたコロ君、今日までしっかりと生き抜いてきたのです。そしてこれからさらにもっと。という時にあの身も凍る地震だったのです。もしかするとそのストレスが身体の不具合を増幅させることになったのかもしれません。

 

ご家族様との出会いはお父様がブリーダーさんに行かれた時です。そこには4兄弟の柴犬の仔犬がいましたが、お父様と目が合った瞬間、真っ先に逃げ出した子がいたのです。それがコロ君でした。我先にというのでないコロ君の大人しく優しい性格がお父様に気に入られたのでしょうか、お父様はそんなコロ君をお家に迎えることにされたのです。

 

震災以降、ご家族様はかつての日常を取り戻すべく奮闘されていました。その最中、コロ君の具合が急に悪くなります。お母様は輪島のかかりつけの病院に連絡を入れますが、休業されていて内灘の病院を紹介されるのでした。お母様はコロ君を連れて金沢方面に車を走らせました。その時、お父様、お嬢様ともに金沢に私用で来ておられ ご家族様は内灘の動物病院で落ち合うことになりました。病院に到着するもコロ君の容態は持ち直すことなくそのまま息を引き取りました。お父様は一目最後に会うことは出来たようですが、コロ君、お嬢様には生きて会うことは叶わなかったみたいです。コロ君は ”大好きな家族に最後に一目会いたい” その一心でなんとかここまで頑張ってその命を繋いでいたのでしょう。

 

連絡は病院からいただきました。ご家族様におかれては、なるべく早くに珠洲に帰らなければならないとのことでその日のお火葬が先ずもってのご要望でした。病院様のほうでもご家族の意向に沿うべく葬儀社を当たっておられたのです。

 

お火葬は夕刻に始まりました。炉前での最後のお別れにコロ君の枕元に綺麗な花々が飾られました。とてもハンサムなコロ君。そのお顔はあの日、お家の奥でご家族様の迎えを信じて待ったコロ君らしい穏やかな中にも凛々し気な面持ちでした。炉に火が入り、家族様に見守られてコロ君は空へと昇って行きました。優しいご家族様に出逢えて本当に幸せでしたね、コロ君。

 

ご焼骨が終わりご家族様には再度 炉前にお集まりいただきました。お知らせしたわけではないのですが、ご家族様の他にも動物病院の職員の方もお二人、手を合わせにお越しいただきました。炉前でのお別れの際にも職員様にはご家族様と一緒にご参列くださっておられたのです。私は常々、病院様には愛しいペットちゃんが亡くなった後でもグリーフケアを含めて飼い主様に寄り添えるそんな病院であってほしいと願っておりますが、こちらの先生はその点も十分承知、実践されておられるようで、且つ又、職員の皆様にもそうご教示されておられるものと存じます。確かにこれまでお火葬に亡くなったペットちゃんのご自宅にお伺いしているとしばしばお花が届きますが、こちらの病院からのお花を何度もお見受けしたことがあるのです。“治療中、治療後ばかりでなく亡くなった後でもペットちゃんとご家族様に寄り添う” 先生のお仕事に対するご姿勢が職員の方々を通して垣間見えるのです。弊社も見習わねはならないなと心から思いました。

 

さて、ご家族様にはこれから珠洲での生活が待っています。ご承知の通り珠洲の状況は依然と厳しいままであり、ご家族様にはご苦労が絶えないことと存じます。どんな時にも癒してくれたあの可愛いコロがいてくれたら。そんな思いに駆られることもあろうかと思います。コロ君。どうかどうか見守っていてください。ご家族様が一日も早くかつての日常と心の笑顔を取り戻せるように。ご冥福をお祈り申し上げます。