お仕事日録

今は亡きふくすけ君のファミリー、猫のいっちゃんの旅立ち

ホワイト&グレーの被毛が美しい猫のいっちゃんが旅立ちました。いっちゃんは一年前に亡くなった芝犬、ふくすけ君のファミリーです。

 

 

9年前のある日、野良猫ちゃんがこちらのお家に1匹の仔猫を連れてやってきました。そしてお家の主ご夫妻に「野良の僕はもうこの生活に慣れっこだけどこの子にはまだまだ助けが必要なんだ。お願いだからこの子の面倒見てくれない?」と訴えました。ご夫妻は見るからに弱々しい仔猫を憐れに思い、野良ちゃんの思いを受け入れることにしたのです。このご夫妻ならばこの子を大切に育ててもらえるのではないか。野良ちゃんはそう考えていたのかもしれません。こうして晴れてファミリーの一員となったいっちゃんはみるみるうちに美しい成猫へと成長していきました。

 

いっちゃんはお父様が大好きでした。好き過ぎてなんでもかんでもお父様の真似をするのです。毎日のお食事に関して言えば、お父様がおかずの味付けやお食べになりたい品の要望など色々お母様に注文されたりするといっちゃんまでもがお父様と一緒になって「ニャー、ニャー」とお母様に文句を言っていたのです。「文句を言っていた」とはお母様自らが仰られた言葉ですが、おそらくお母様にはいっちゃんがお父様の肩ばかり持っているように聞こえていたのでしょう。

 

そんないっちゃんが亡くなるとは。もちろんご家族誰ひとり想像すらしていませんでした。その日、いっちゃんはいつもと変わらす朝ごはんを食べるとお母様に日課のブラッシングをしてもらっていました。気持ち良さげないっちゃんもいつもと変わりません。その後、お母様はほんの数時間だけ外出されるのでした。2,3時間くらい後でしょうか お母様がご自宅に戻られるといっちゃんの姿がありません。不審に思われたお母様はお嬢様と一緒にお家の中を隈なく探されました。すると2階のお部屋のテレビの奥、いっちゃんが尋常でない様子で蹲っていたのです。既にいっちゃんは他界していました。手足は冷たくなっていましたが、背中はまだ温かかったとのことでした。いっちゃん。どうして誰にも伝えずにひとり逝ってしまったの。ご家族様には唯々お悔やみ申し上げます。いっちゃんはふくすけ君同様、ご家族に負担をかけてはならない、辛い思いを悟られてはなるまいと気丈に最期の時を過ごしていたのでしょうか。いっちゃん、ほんとうによく頑張ったね。

 

突然の訃報にお父様は如何なさっておられるのでしょうか。実は、お父様は、現在、入院をされておられるのです。ご退院間近とのことでしたが、いっちゃんはその前にそっとひとり旅立ったのでした。お母様は入院中のお父様に知らせるかどうしようかと迷われていました。目に入れても痛くないほど可愛がっていたお父様です。お知らせすればそのショックがお父様の病状回復を遅らせることにもなりかねないのです。もしかしたらいっちゃん自身もそれを危惧して急いだのかもしれません。その後、お聞きしましたらご子息がお父様のご負担にならないようお話しされたそうです。

 

ご葬送には大勢のご家族様がご参列くださいました。お拭き清め、ご納棺、枕経と順次、とり行いました。最後にはご家族様の手により美しいお花が炉前に手向けられご出棺となりました。愛するみんなに囲まれて最後まで幸せだったね。いっちゃん。

 

かつてふくすけ君が住んでいた車庫のゲージの中を覗くとそこには可愛いニューフェイスがいました。あ、ふくすけ君が戻ってきた?ふくすけ君と見紛うほどに可愛い柴犬がこちらに視線を送っているのです。ふくすけ君亡き後、ご夫妻はペットロスに陥り辛い思いをしていました。そんな中もう飼えないと諦めていた心を動かすふくすけ君と同じ柴犬に偶然に出逢ったのです。いっちゃんは思いました。「このニューフェイスはふくすけ君を亡くしたご夫妻の悲しみを癒す役割を担ってやってきた。これで僕も安心して旅立てる」自らの旅立ちが近いことを知っていたいっちゃんはニューフェイス君にご夫妻を託すと自らはお父様の病の悪いところを全て引き受けて旅立っていった。そんな気もするのです。

 

 

ご葬儀をとり行ったお部屋にはふたつの遺影が飾られていました。絵はお嫁さんが描かれたもの、時計の横のお写真はお孫さんが撮影されたものでした。大切にされていたんだね。いっちゃん、どうかふくすけ君と一緒にご夫妻を、ご家族様を見守っていてください。