お仕事日録

ハンサム猫の虎寅(コトラ)君、雪の降る日のお旅立ち

虎寅(コトラ)君、17歳が旅立ちました。

 

 

ハンサムでかつてはとても元気な虎寅君でしたが。しかし腎臓病を患ってからは少しずつ体調を崩しがちになりました。腎の病いに老いによる衰えも加わり、ついに虎寅君は寒さ厳しい2月の初め、とうとう天へと召されてゆくのでした。このお歳までよく頑張りましたね、虎寅君。心よりご冥福をお祈り申し上げます。

 

飼い主ママ様からお電話をいただいたのは朝方でした。「今しがた、飼っていた猫が亡くなりました。葬儀をお願いします」と消え入りそうなお声にママ様が今まさにどうしようもなくお辛い状況にあられることが痛いほど伝わってまいりました。どうお声掛けしたものかと戸惑いながらも深い悲しみを宿したママ様のお心に想いを馳せるうち、私どももなんとかママ様のご希望に沿う形でお力になれればとの思いを強くしていきました。

 

しかしながらお火葬のご希望日は近年最強の大寒波がやってくる日、そのうえその寒波は数日 居座りつづけるとのことでした。そんなこともあってママ様とは何度かお電話にてやり取りさせていただき ママ様にも虎寅君にも最も良い形で、尚且つ、雪による遅延やその他不都合なことが生じない日時をご提案させていただきました。そうしたところママ様は私どものご提案に耳を傾けてくださり、その提案もまたご承諾いただいたのです。

 

ママ様のお勤めされている会社の社長様も理解あるお方のようでご葬送における間のママ様の外出を許可してくださいました。そのお陰でこの日のこの時間しかないというタイミングでご葬送させていただけることとなったのです。こうしてママ様には、虎寅君の慣れ親しんだご自宅の窓に面した駐車場にて虎寅君の側を離れることなくゆっくりとお見送りしていただけました。

 

 

虎寅君とママ様の出会いは雑誌の飼い主募集の記事がきっかけでした。一目で雑誌の中のキジトラハンサムボーイに惹かれたママ様は迷うことなくその子を家族に迎えられました。それからというもの ママ様は「虎寅」と名付けられたその雄猫ちゃんに寄り添い、17年間の長きに渡って楽しい時も辛い時も常に互いに励まし慈しみ合いながらともに過ごしてこられたのです。そのことを思えば、多少 ご希望に添えるお時間ではなかったかと存じますが、ママ様の思いは何とか叶えられたのかなと思っています。

 

ママ様にはおかれては、これより先も幾度となく悲しみが襲ってくることがあろうかと存じます。それでも虎寅君はこれまでと変わらずどんな時も愛するママ様の一番の味方。どうか勇気を奮って少しづつでも平常を取り戻してほしいと願っています。

 

雪が深々と降る中、ママ様は炉前でのお別れに虎寅君の体を愛おしく何度も撫でられるとその後 お心を決められ 最後のお見送りに臨まれました。程なく炉に火が放たれると虎寅君は冬空にゆっくりと昇っていきます。その行方を見守るママ様の肩には無数の雪片が数多の想い出を乗せて降り注いでいました。そしてその雪片はやがて愛の結晶となって美しいチンダルの花を咲かせるとママ様の心の中でいつまでも誇らしく咲き続けることでしょう。

 

ママと出逢えて本当に幸せでしたね、虎寅君。時が来ればこの雪もいずれ融けてゆくだろうけど、君とのお別れに悴んだママの心は君だけしか融かせない。だから今度は春の風に想い出をたくさんたくさん乗せてママに運んでください。そしてママの心が春の光で明るく照らされるその日までどうかどうかママを見守ってほしいです。ご縁を戴いてありがとう、虎寅君。