柴犬のチビ太君が旅立ちました。12歳と4ケ月、老衰でした。
チビ太君は12年前に飼い主ご夫妻の、親戚のブリーダーさんから貰われてきたワンコです。幼い頃からいたずらが大好きなやんちゃ坊主でした。お家ではお父さん以外の言うことは全く聞かなかったようです。食事はいつもお母さんの手作りで食べ物ではブロッコリーが大好きでした。とにかく食いしん坊でありましてお母さんがお父さんのためにご飯を食卓に並べていようものならお母さんの目を盗んで食卓に上って全部食べてしまうほどでした。
お散歩には雨の日も風の日も毎日欠かさず出かけました。それも1時間以上かけて遠くの公園や見晴らしのよい丘に連れて行ってもらっていたのです。チビ太君は街の人気者でお散歩中には道すがらよく声を掛けられました。チビ太君の人気はお母さんを綺麗にしました。と言うのは、チビ太君を連れているお母さんは誰に見られても恥ずかしくないようどんな時もお化粧を欠かさず出かけるしかなかったのです。
チビ太君、夜はいつもお父さんとお母さんのお布団の中でお休みしていました。大好きなお父さんが出張で家を空ける日の夜もチビ太君は玄関の前でずっとお父さんの帰りを待っていました。「お父さんは、今日は帰ってこないよ」とお母さんが何度諭してもその場を離れなかったといいます。腕白な一面のなかにも忠犬だったチビ太君。本当に愛おしいですね。
実は、こちらのご夫妻はかねてから友人でチビ太君のお話は生前からよく聞いておりました。病院に出かけたお母さんが傷だらけの腕を先生に見られ、その度に「ちなみにこれは夫婦げんかの傷ではないのです」といつも弁明していた、、なんていうお話もお聞きしました。お火葬後のご夫妻による「お骨上げ」の際には、お母さんに噛みついたであろうその大きな犬歯が見つかりました。お母さんはその犬歯をお箸で拾いながら「この牙で何度病院に行ったことか」としみじみと話されました。
チビ太君は具合が悪くなって以降、夜にはいつもお父さんのお布団で眠っていました。おそらくお父さんのお布団の中が一番、安心なのでしょう。そんなチビ太君ですが、最期の時、永遠の眠りに着いたのはお父さんの腕の中だったのです。どこよりもほっと懐から旅立てるなんて。どれほど安心だったことか。良かったね、チビ太君。
お火葬、お骨上げも終わり、ご夫妻はお骨となったチビ太君を抱いてご自宅へと戻られました。お帰りになられた後も「明日からどうしよう」といつも明るいお母さんの言葉が今も私どもの胸のどこかに痞えています。そう仰られた時、私どもには返す言葉が見つからなかったのです。そんな中にあってご夫妻はお帰りになる直前、私どもの愛犬ユズに会いたいと仰いました。チビ太君と殆ど変わらないお歳のユズです。チビ太君のご葬送に際してユズの話はしないでおこうと決めていたのですが、お断わりするわけにもいきません。お二人に久しぶりに会ったユズは幼いころから可愛がっていただいていたのを覚えているのかちぎれんばかりに尾を振っていました。お二人のご心情を考えると私どもはいたたまれない気持ちになった次第です。
チビ太君の近況をお会いする度 お聞きしていた私どもには痛いほど分かります。お子様のいないご夫妻にとってチビ太君の存在はとってもとっても大きいことを。チビ太君。お父さんとお母さんのこと、どうかどうか天国から見守っていてほしいです。チビ太君にはそうお願いするしかないのです。
チビ太君のご冥福をお祈りいたします。